東京高等裁判所 昭和62年(ラ)415号 決定 1987年8月06日
抗告人 日東総業株式会社
右代表者代表取締役 緒形真夫
右代理人弁護士 内野繁
相手方 小野欽也
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一 本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。
二 当裁判所の判断
1 記録によれば、別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)は、もと加藤義雄が所有していたところ、同人は、昭和五一年六月九日、自己が代表者をしている秋田企業株式会社を債務者とし、根抵当権者株式会社第一相互銀行のために本件土地につき根抵当権を設定し、同月二五日、その旨の設定登記を経由したこと、西武信用金庫は、同五三年一〇月一六日、右根抵当権の譲渡を受け、同月二四日、その旨の移転登記を経由し、同五七年七月二七日、その申立てにより東京地方裁判所から競売開始決定を受けたこと、抗告人が、同六二年四月八日、本件土地を代金三一五〇万円で買受ける旨の売却許可決定を受け、同年五月一三日、その代金を納付して所有権を取得したこと、他方、本件土地上には、加藤義雄から依頼を受けて菅原克己が建築した別紙物件目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)が存し、同人が、同五五年八月三〇日、その所有権保存登記を経由し、その後、林部重、山田重和を経て、同五九年二月二四日、相手方が売買を原因として本件建物の所有権移転登記を経由したことが認められる。
2 民事執行法第一八八条が準用する同法第八三条第一項による引渡命令は、不動産の占有者に対しその不動産を買受人に引き渡すべき旨を命ずるにとどまり、それ以上に占有者に対し引渡し以外の作為まで命ずることはできないものと解される。
前記認定事実によると、抗告人は、本件土地の代金を納付した買受人ではあるが、本件土地上には相手方所有の本件建物が存するから、抗告人が本件土地の引渡を受けるためには、本件建物が収去される必要があるが、本件土地に対する引渡命令によっては本件建物の収去を実現することができず、これを実現するためには、抗告人において別訴の提起等により本件建物収去を命ずる債務名義を得る必要があり、このような場合には本件土地について引渡命令を発することはできないものというべきである。
したがって、これと異なる前提のもとに本件土地の引渡命令を求める抗告人の本件申立ては、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。
3 よって、抗告人の本件引渡命令の申立てを却下した原決定は、結局相当であるから、本件抗告を棄却し、抗告費用を抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 野田宏 裁判官 川波利明 米里秀也)
<以下省略>